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 2018年上半期のお気に入り5作品(http://suamania.blog.fc2.com/blog-entry-18.html)に引き続き、7~12月の間に読んだ同人誌の中から、特に心に残った5作品です。
 読んだのは今年なんですが、去年買ってから1年以上のタイムラグを経て読んだものもたくさんありまして……
 買うペースに読むペースが全く追いついていないわけですが、いつ読んでも、面白い本は面白いですからね!

 そういうわけで、今回は以下の5冊をご紹介します。

 なお、紹介文は、ツイッターの感想ツイートをもとにしています。
 紹介順は読んだ順です。

「総督と画家」
作者:唐橋史さん
サークル:史文庫
買ったイベント:第24回文フリ東京

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 舞台は17世紀ネーデルラント。唐橋さんの名作「黒南風の八幡」のスピンオフで、「黒南風~」の悪役だったアメルスフォールト総督の物語です。冒険活劇風の前作とは雰囲気を異にして、しっとりとした切なさとあたたかさを感じさせるお話でした。
 冷酷で、ヒステリックで、捉えどころのない総督と、絵の道に一途に生きる男装の女流画家との交流。二人の間にあるものは、恋というにはあまりにも淡く、互いの生きる道が交わったのはほんの短い間に過ぎません。
 微妙なバランスの中で成り立つ二人の関係性に清廉な美しさを感じます。
 二人とも住む世界や性格は全く違えども、自らの全うすべき運命を真っ直ぐに見据える真摯さが似ているように思えました。
 唐橋さんの作品ならではの「時代の空気感」も存分に味わえ、心に刻まれる美しい物語でした。 


「イヤサカ」
作者:清森夏子さん
サークル:イノセントフラワァ
買ったイベント:第6回テキレボ

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 古代日本的な世界観の和風ファンタジー長編小説。
 火の神に仕える女王(実は少年)という設定からして胸熱です。
 山の民と海の民の軋轢から生じた対立がいったいどこに行き着くのか……怒涛の展開が面白くて一気読みでした!
 主人公のナホは、真っ直ぐひたむきな少年の心と、巫女としての神秘性を兼ね備え、ヒーローであり、ヒロインでもあり、魅力的な主人公でした。
 異なる民族の対立や、人間どうしの対立を描きつつ、和解の道を探る展開に説得力があって、それがナホの成長に重なっています。
 爽やかな、満ち足りた気持ちで読み終えました。 


「単眼奇談」
作者: nonokoさん
買ったイベント: 第26回文フリ東京

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 日野市の高幡男子高校、通称タカダンに現れた、記憶喪失の一つ目の少年・日野義樹が主人公の、ちょっと不思議な学園小説。
 彼を取り巻くタカダンの生徒達も強烈に個性的で、かつ、心に壮絶なモノを抱え、それが絶望的な悲劇に繋がっていきます。
 日野は、自分が何者なのか、神なのか、妖怪なのか、人間なのか分からないまま、一癖も二癖もある友人達と日々を送ります。
 アイデンティティというテーマが全体に貫かれているように思いました。
 シュールで摩訶不思議な空気感のある物語ですが、少年達が心に抱えるものに傷つき、現実に絶望し、己が何者かを問い続ける姿は、王道の青春小説のように感じられ、不思議な吸引力のある作品でした。


「蛆神様 眼球ノ章」
作者: 有本博親さん
サークル: 繪ノ鐘
買ったイベント: 第25回文フリ東京

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「この近辺での願いごとはご遠慮お願いします。
 願いごとによる事故等につきましては一切責任を負いません。」
 ……という奇妙な注意書きとともに、至る所に現れ、街の人々の願い事を叶えてくれる謎の神様「蛆神様」。
 しかし、願いの叶え方がだいぶズレている上に、街の人達やヒロインの同級生達がこぞって蛆神様に願い事をし出したので、大変な事に……。
 強烈なブラックユーモアとカオス感に溢れた連作掌編集でした。
 短い話の中に驚きの展開が繰り広げられ、「うわぁ……こんな願いの叶え方は絶対にいやだなぁ」と心底思いつつ、次は誰がどんな願い事を叶えてどんな酷いことになっちゃうんだろう!? と気がついたら一気読みでした。
 ヒロインの小島ハツナちゃんのツッコミが毎回びしっと効いてます笑


「DAMMED THING Vol.3」
作者: 江川太洋さん はもへじさん 河野真也さん
サークル: WORLD BEANS
買ったイベント: 第26回文フリ東京

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 毎巻ごとに、とても恐ろしくて面白く、ひねりの効いたホラーを楽しめるWORLD BEANSさんの「DAMMED THING」。
 今回も、収録三話ともブラックさが効いていて、とても怖面白かったです。テーマフリーで書かれているとの事ですが「日常と異世界との接点」が、それぞれの形で強く印象に残る三篇でした。
 「祈り」江川太洋さん
 虚空から歯を出現させる「祈り」の能力を持った女性の奇妙な人生を辿る話です。他者の「殺人の予兆」を見る事ができる男性と出会い、不思議な力を持つ者同士惹かれ合うのですが……良い方向に向かうかと思いきや。衝撃のラストです。
「柔術怪談」はもへじさん
 柔術の道場を舞台にしたユニークな怪談小説。スポーツ小説と、心温まる恋愛小説と、背筋のぞっと冷える本格ホラー小説とを兼ねつつも、違和感なく読め、新感覚の怖さを楽しめます。
「呪いの証明」河野真也さん
 九州の山間の村に脈々と受け継がれるある風習の中に、呪いの本質を覗き見る話。読み終わった瞬間、とても怖い、と感じました。しかし、作中では幽霊や怪異の直接的な描写はありません。「見てはいけないものを見てしまった」という恐怖が強烈に心に残ります。


今年下半期のおすすめ本まとめは以上です。
今までは、ツイートした感想はモーメントでまとめていたんですが、スマホから編集できなくなってしまいましたね……。大変不便です。
来年以降は、同人誌の感想も読書メーターにまとめるかもしれません。

それでは。
今日二回目ですが、良いお年を!

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 早いもので間もなく2019年がやってこようとしています。
 ツイッターの企画「創作TALK 2018-2019」への参加とのいうことで、2018年の創作活動、同人活動の締めくくりとして、胸の内を軽く綴ってみようと思います。

<今年一年の参加イベント>

1月 第2回文フリ京都
3月 第2回文フリ前橋
5月 第26回文フリ東京
6月 第2回静岡文学マルシェ
7月 第7回テキレボ
8月 HUBaNICED!
11月 第27回文フリ東京

<執筆作品>
2月 「シャバーンの憂鬱」(TDSマジックランプシアター二次創作)
3月 「首切地蔵の話」
4月 「右の目の海」(第7回テキレボ公式アンソロ「海」参加作品)
5月 「願い」(アンソロジー「食人謝肉祭」参加作品)
9月 「青闇妖影鬼談」
11月「オニ送りの夜」(アンソロジー「VIAGGIO NOTTURNO」参加作品)
   「ここにいる」(第8回テキレボ公式アンソロ「花」参加作品)

 他の方の主催されるアンソロジーへの参加も含め、今年は内容的にも挑戦的な作品が多かったと思います。
 さて、その中でもやはり今年一番大きかった「挑戦」は、初の長編小説である「青闇妖影鬼談」を書いたことです。

 同人誌の裏表紙に書いたあらすじがこちら

突如として不穏な闇に覆われた地獄の世界と三途の川。夜の闇に溶けるように、地獄の閻魔王庁で使役される死神達が次々に行方不明となる。
姿を消した死神達はどこへ行ったのか?
死神を襲うあやかしの正体は?
そして、時を同じくして、幕末の江戸近郊の漁村では、幾人もの死者が生き返るという事件が頻発する。
大切な者を取り戻すため、一人の死神と一人の武士が、青い靄の充ちる妖花の森に挑む。



「赤目のおろく」の同世界観の小説となっていますが、独立して読むことができます。
 おおよそ12万字で、私の人生で初の10万字越えの長編小説になりました。
 地獄とか、死神とか、妖怪とか出てくる和風怪奇ファンタジーです。

 この話を書き上げ、同人誌の形にし、文フリ東京で頒布しました。


https://c.bunfree.net/p/kyoto03/11964


 やり遂げた、という感慨があります。

 そうして、私が今、心の底から思うことはひとつ・・・・・・




私は!!!

面白い長編小説が!!!

(まだ)書けない!!!






 文フリで、思いもかけず沢山の人に拙作を買っていただけたのに、こんな事を思うのは、本当に大変申し訳ないのですが、やはり自分の作品に対して率直に思うところは、これです。
 もちろん、推敲の段階で何度も読み返したし、製本版が届いても読み返しました。その度に「意外と面白いじゃん」と思いました。
 でも、やはり・・・・・・未熟さが溢れ出ている・・・・・・気がする。
 本当の意味での「面白さ」に今一歩届かない気がする。

 そんな感じで悶々としています。

 なので、以下は、今年の長編執筆に当たっての私の反省文になります。
「青闇妖影鬼談」をこれから読まれる方で、あまり変な先入観を持ちたくないという方は、これ以降は読まずに戻られることをおすすめします。
(ただし、ネタバレはしていないつもり・・・・・・)


 まずは、良かったところから・・・・・・

<良かった点>
1、幻想的な世界観の描写
 独特の世界観を書き表すのが、自分の小説の売りだと思っているので、ここは自分では満足しています。その世界観が、読者にちゃんと伝わっているか、は別として。

2、完成させたこと
 今回はとにかくこれが全てでした。書き終えた!
 こうやってあれこれ反省して次に生かそうと思えるのも、書き終えることができたからこそ。時間がかかっても「完成」させたことに関しては、私はえらかったと思います。

3、神頼みをしたこと
 神社で「小説が書き上がりますように」としつこいくらいに祈りました。ありがとう神様。

次に、悪かった(?)ところ・・・・・・

<反省している点>
1、登場人物の性格付け
 これは私が前々から苦手にしている部分ですが・・・・・・主要人物がみんな「良い人」って感じになってしまったのが、難有りかなぁと思いました。
 左之吉も「赤目のおろく」では結構ワルいところもあるヤツだったのに、本作ではだいぶ丸くなってしまいました。
 もう一人の主人公である松原数馬も「善良でまじめな人」というカラーが強いので、もうちょっと尖った性格のほうが話の広がりがあったんじゃないか、とか考えます。
「登場人物の性格付け、キャラの立たせ方」が、今後の課題のひとつです。

2、背景設定の作り込み
 設定はもちろん考えていますが、掘り下げが足りなかったようにも思います。
「地獄の世界はどんな仕組みで成り立っているのか?」「閻魔王庁の具体的な組織構造は?」「死神とは?」「鬼とは?」等、作者でありながら細かいところまでちゃんと答えられる自信が、実はありません。
 そのあたりの掘り下げをもっと進められていたら(作品にどの程度反映させるかどうかは別にして)、登場人物達(特に、今回の主人公の左之吉)の行動にももっと説得力が出せたのではないか、と思います。

3、構成
 そもそも、はじめは見切り発車的に書き出したのですが、だんだん詰まっていきました。
  一月に「ストラクチャーから書く小説再入門」(K.M.ワイランド/フィルムアート社)を読んで、この本に書かれていた「三幕構成(映画のシナリオ等では有名な型らしいです)」を参考にし、プロットを抜本的に作り直しました。

http://amzn.asia/d/05ttFN6

 これ以降、全体の展開を俯瞰的に考えられるようになり、話の運びで迷わなくなりました。
 「ストラクチャーから~」を読まなければ「青闇妖影鬼談」は書き上がらなかったと本気で思うし、ある程度、型にはめたプロットというものも大事なのだと実感する次第です。
 ただ、初めの段階でプロット作成が二転、三転してしまったせいか、ところどころにストーリーとしての「矛盾」があるように感じています。
「構成の矛盾」って執筆の段階で気がついても、どうしようもない、というか、そのまま書き進めるしかないんですよね・・・・・・。
 次に書く長編では、執筆の前段階でしっかりプロットを固めて臨みたいと考えています。
 しかしながら、執筆しながら急に思いついた設定をねじ込んでみたら意外にも上手いことはまった、という経験もあるので、そういう即興性の入る余地も小説には必要ですよね。
 うーん、難しい!


 と、いうわけで、手探り状態で四苦八苦しながら書き切った「青闇妖影鬼談」。上記のようにたくさんの反省点があります。

 カクヨムコンも出そうとしたけど、「文フリ頒布からあまり日を置かずにWEB公開はどうかな・・・・・・」という理由の他に、「コンテストに出せるレベルに達していないな~」という理由も本心にはあり、すぐに取り下げてしまいました。すみません。

 でもやっぱり、どんなに未熟だとしても「私は、この話が好きだ」と、読み返す度に思うし、書いて良かったと心から思います。
 いろんな意味で、これから先も忘れられない作品になるのだろうと感じています。

 ていうか、自作を自分でこんなにdisってしまい・・・・・・文フリで買ってくださった方々には本当に申し訳ない気持ちだし、私の作品読みたい人もいなくなっちゃうんじゃないかと不安ではありますが、一年の最後にあえて自分の思うところをそのままぶちまけてみました。

 来年も、いろんな手探りをして、トライアンドエラーを繰り返し、ちょっとずつでも、ゆっくりでも、創作が続けていけたら良いなぁと思います。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。
 良いお年を。

  
 お久しぶりです。
 2018年1月~6月に読んだ小説同人誌の中でも、特に私が好きな5作品を、私自身の読書記録も兼ねて勝手ながらご紹介します。
 というか!
 もう9月じゃん!

……すみません。7月中には公開するつもりだったのですが、プライベートや自分の原稿でばたばたしておりました。

 今年も面白くて心に残る本に数多く出会える機会があり、5作品に絞るのも難しいところがありましたが、本当に純粋に好き! の気持ちに基づいて、選んでみました。
 私の好みが色濃く反映されている選書ではありますが、どの本もほんとに面白かったです。
(好き勝手書いているので「こういうのを書かれたら困る!」という作者さんがもしいましたら、該当箇所を消しますので教えてください)

 ちなみに、2017年版MYBEST5はこちら
 http://suamania.blog.fc2.com/blog-entry-8.html

 なお、紹介文は、ツイッターの感想ツイートをもとにしています。
 紹介順は読んだ順です。


「闇群れに蛇」
作者:ろくさん
サークル:階亭
買ったイベント:第6回テキレボ

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ウキヨミという邪悪な妖と戦う少年「蛇骨」と、ウキヨミを滅ぼすための「蛇骨」を何百年にもわたって繰り返し拾い、育て続ける「輝水」という謎の青年の物語。
おどろおどろしさと美しさとエロスの混在した、和風ダークファンタジーな世界観がめちゃくちゃはまります。ウキヨミの淫乱でドSな言動も、蛇骨と輝水の歪ともいえる依存関係も、ウキヨミの連れてくるおどろおどろしい闇の風景も、とにかく私の性癖にささりまくりでした。
和風怪奇ジャンル好きな方は是非……! とおすすめしたいところなのですが、現在、作者様は同人活動を休止中とのこと。
もし、いつか同人活動を再開された時は、是非とも他の作品も読んでみたいです。


「さよの夏、冬」
作者:飯田洋子さん
サークル:エマニナク
買ったイベント:文学フリマ前橋

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北国の海辺の町で戦時を過ごす少女の物語。
戦時下の直江津の生活、風景がすぐ目の前に広がるように鮮やかに描かれています。文章と、文章から伝わる空気感そのものがとても美しい。
幼いさよが家族と、友達と共に過ごし、映画好きの青年と共に洋画を見、胸をときめかす日々がとてもきらきらして愛おしく、その分、戦争が落としていく暗い影の痛ましさが心に響きます。戦争によって心も体も傷つけられた青年の変わり果てた姿に、言いようのない深いかなしみを感じました。

この本はとても面白い作りになっていて、裏からも別の作品が楽しめます。

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「怪怪あつめ」は、ちょっぴり怖いけど、どこか懐かしい気分になれる怪談実話エッセイで、こちらもおすすめです!


「エクストリーム・ワーキング」
作者: 柏木むし子さん
サークル: むしむしプラネット
買ったイベント: 第6回テキレボ

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主人公のエリー君が異世界の奇妙奇天烈なお仕事を実体験レポートする物語。
グロテスクさとダークさとユーモアの調和が絶妙で、私が大好きな感じですね!
3編の連作短篇集です。その中でも「キューブ」というお話は、テキレボの「こわい本MAP」の参加作品でもあるのですが、悪夢的な怖さがあります。しかし、現実の社会で、これと似たような事が決してないとは言い切れるか? と考えると二重の不気味さを感じさせ……。
ネトネト感の伝わってくる「混ざる」も、シュールでとても好きです。
ピリッとくる、SF短編小説が好きな方におすすめしたい一冊です。



「みちのくの君」1~5巻
作者: ひなたまりさん
サークル: 時代少年
買ったイベント: いろんなイベント

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平安時代の奥州の大豪族の武将であった安倍貞任の波瀾万丈な人生を描く、読み応え満点の歴史小説です。
5巻にわたる大長編ですが、息をつかせぬ展開に引っ張られて一気読みできます。
愛する者達のために命を燃やした安部貞任と、彼を支えた人たち、そして、安倍貞任の愛したみちのくの地の激動の歴史の一幕が、五冊の本の中に詰まっています。
歴史のうねりに翻弄され、様々な過去を抱える人間達の激しい心のぶつかり合いの向こうに見えてくる真実は、時にとても残酷なものですが、苦しみも悲しみも人一倍抱えて生きた安倍貞任の生き様は、読み終えた後も心に深く残ります。
安倍貞任と深い絆で結ばれる藤原経清をはじめとして、登場人物達もひとりひとり魅力的でした。
背景知識がなくても面白いので、日本史好きな方は是非読んでみてください!



「雨街で残響」上下巻
作者: 転枝さん
サークル: 木の葉スケッチ
買ったイベント: 文学フリマ前橋、静岡文学マルシェ

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2回目の東京大空襲によって被害を受け、復興した未来の浅草「雨街」を舞台にしたSF小説。
主人公のヒビキは、15年前の事故で閉鎖されたお台場で「清掃」のアルバイトをして生計を立てているのですが、その清掃というのが、「ヒトガタ」という化け物を殺す事で、この設定がほんとにゾッとするくらい、すごい。ホラー要素もありつつ、息をつかせぬバトルシーンも読み応えあります。
一方、非日常的なヒトガタとの戦いと対比的に、ヒビキの過ごす雨街での日常は、生活感を持って静かに語られていきます。様々な文学作品や映画が作中で引き合いに出され、登場人物が好きな作品について語る、というのがコミュニケーションとなり、彼ら彼女らの距離感や寂しさが浮き彫りになって胸に迫りました。
設定はSFなのですが、やはり、この物語の本質は、人と人がどうやって関わっていくべきか、どこまで自分を晒け出すべきか、に悩む少年少女の青春小説なのだと思います。
とにかく読んで欲しい。


 よく晴れた青い空に真っ黒な雲が浮かんでいた。
「あれは何でしょうねぇ」
「いやはや不思議ですなぁ」
 人々は空を見上げて訝しがった。
 黒い雲はすーっと地上に向かって近づく。そして、ぼんやりと頭上を見上げている人間達をひゅうっと吸い上げてしまった。
 結局、雲は動き回って13593904人の人間を吸収し、その後、動きを止めた。
 何日かすると、その地にはUFOが飛来した。
 UFOから降りた宇宙人は侵略がてら、しばらくその辺り一帯を散策し、言った。
「最新型の宇宙掃除機は性能が良いね。ごちゃごちゃ動いていた生き物がいなくなってすっきりしたよ!」
 宇宙人は黒い雲、ではなくて最新型掃除機を見上げて満足げに微笑んだ。


僕は長年の研究の末、新種の花の栽培に成功した。温室いっぱいに咲く新しい花を眺め、達成感を噛みしめる。
さっそくテレビ電話で、遠くに住む両親に研究の大成功を伝えた。
しかし、そこで気がついてしまった。テレビ電話の画面の端に映る鉢植えの花に。
「ああ、この花は私達の故郷の花よ。故郷の村はお前が幼い時にダムの底に沈んでしまったけど、同郷の人があの村にしか咲かない珍しい花の球根を保護していて、この間分けてくれたの」
母は何気なく言った。
なんてこった。僕はきっと幼い頃に見た花の面影を無意識に追い求めていた。
僕の作った花は故郷の花と同じ。新しくはない。新しくなければ意味はない。
僕は温室に灯油を撒き、火を付けた。