よく晴れた青い空に真っ黒な雲が浮かんでいた。
「あれは何でしょうねぇ」
「いやはや不思議ですなぁ」
 人々は空を見上げて訝しがった。
 黒い雲はすーっと地上に向かって近づく。そして、ぼんやりと頭上を見上げている人間達をひゅうっと吸い上げてしまった。
 結局、雲は動き回って13593904人の人間を吸収し、その後、動きを止めた。
 何日かすると、その地にはUFOが飛来した。
 UFOから降りた宇宙人は侵略がてら、しばらくその辺り一帯を散策し、言った。
「最新型の宇宙掃除機は性能が良いね。ごちゃごちゃ動いていた生き物がいなくなってすっきりしたよ!」
 宇宙人は黒い雲、ではなくて最新型掃除機を見上げて満足げに微笑んだ。


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僕は長年の研究の末、新種の花の栽培に成功した。温室いっぱいに咲く新しい花を眺め、達成感を噛みしめる。
さっそくテレビ電話で、遠くに住む両親に研究の大成功を伝えた。
しかし、そこで気がついてしまった。テレビ電話の画面の端に映る鉢植えの花に。
「ああ、この花は私達の故郷の花よ。故郷の村はお前が幼い時にダムの底に沈んでしまったけど、同郷の人があの村にしか咲かない珍しい花の球根を保護していて、この間分けてくれたの」
母は何気なく言った。
なんてこった。僕はきっと幼い頃に見た花の面影を無意識に追い求めていた。
僕の作った花は故郷の花と同じ。新しくはない。新しくなければ意味はない。
僕は温室に灯油を撒き、火を付けた。



 母校の近くを十年ぶりに通りかかった。驚いたことに、帰り道の買い食いの定番だった人形焼きの屋台が商店街の中に今も変わらずに佇んでいた。懐かしさの余り1個買ってしまった。
 キツネ色の柔らかな生地に目と鼻と口、そしてぷっくりとしたほっぺが浮き上がった、おかめの顔の人形焼き。中にはきっとアンコがたっぷり詰まっている。
 勿体なくてすぐには食べられず、人形焼きとしばし見つめ合う。
 学校帰りに友達とこの人形焼きを食べていたら、クラスメートの男子に「共食い」とからかわれて腹を立てた。本当はあの子がちょっぴり気になっていたんだっけ。
 そんなことを思い出しながら人形焼きにかじり付く。あの頃と同じように、大きな口で豪快に。
 私を試着室に案内した店員はカーテンを閉める瞬間に告げた。
「当店ではお客様にぴったりの服が見つかるまで試着室からは出られないことになっていますのでご了承下さい」
 隣の試着室からは啜り泣く声が聞こえる。これも合わない、これもこれも。いつになればここから出られるの?
 私は緊張しながらワンピースを頭から被った。サイズも色もぴったり。良かった。試着室から出られそうだ。
 カーテンを開く。
 しかしそこはまた別の試着室。そして別のワンピースが壁にかかっている。
 私は気が付いた。この試着室でも、そしてこの先無限に続くであろう全ての試着室でも私は永久にワンピースを試着し続けなくてはならない。
 私はここから出られない。


「彼が憎いわ」
 彼女は僕の前で涙声で呟いた。
 恋人に裏切られた彼女。僕は彼女の呪詛に黙って耳を傾ける。
 彼と別れたのなら僕と付き合ってほしい。そんな本心は押し隠し、彼女の相談に乗りながらゆっくりと距離を縮めよう。そして、そうだ、ささやかな贈り物をするのだ。彼女の怨みを晴らすことができるような素敵な贈り物。
 一週間後、僕は贈り物を鞄に入れて彼女と会った。
 意外なことに彼女は幸せそうに微笑んでいた。
「新しい恋人ができたの」そう告げられ、僕はせっかくの贈り物を渡せなくなった。
「あ、ゴミ付いてる」彼女の肩に絡まった一本の髪の毛を摘み取る。
 贈り物は自分で使うしかない。
 僕の贈り物は一体の藁人形と五寸釘だった。

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<あとがき>
以前、Amazonで藁人形と五寸釘の「呪いセット」が売られていたのを見つけてしまい衝撃を受けました。
Amazonだから当然ギフトとして他人に贈ることもできるんだよなぁ、と思ったのが発想のきっかけです。
実際に贈ったら嫌がらせ以外の何物でもないですよね。