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 窓を開けていたら、薄紅色の花弁が舞い込んできた。
 思わず外を見る。
 いつもと変わらない、灰色の雑居ビルがひしめく、寂しい都会の風景。
 どこにも花なんか咲いていない。

 しかし、次の日も、花弁は窓辺にぽとりと落ちた。
 そのまた次の日も。
 まるで一人暮らしの私の寂しさを慰めに訪れるかのように。
 
 どこで花が咲いているのだろう?

 私はマンションの屋上に足を運び、そして、そこから見えた景色に息を飲んだ。
 幾千もの紅の花が咲き乱れ、風に波打っていだのだ。
 だが、それが花畑に見えたのも一瞬の事。
 夕日に照らされた赤い鱗雲の連なりが空一面に広がっているだけだった。
 
 ひらり、とまた一枚、風に乗って薄紅の花弁が私の掌に舞い落ちる。





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 よく晴れた青い空に真っ黒な雲が浮かんでいた。
「あれは何でしょうねぇ」
「いやはや不思議ですなぁ」
 人々は空を見上げて訝しがった。
 黒い雲はすーっと地上に向かって近づく。そして、ぼんやりと頭上を見上げている人間達をひゅうっと吸い上げてしまった。
 結局、雲は動き回って13593904人の人間を吸収し、その後、動きを止めた。
 何日かすると、その地にはUFOが飛来した。
 UFOから降りた宇宙人は侵略がてら、しばらくその辺り一帯を散策し、言った。
「最新型の宇宙掃除機は性能が良いね。ごちゃごちゃ動いていた生き物がいなくなってすっきりしたよ!」
 宇宙人は黒い雲、ではなくて最新型掃除機を見上げて満足げに微笑んだ。


僕は長年の研究の末、新種の花の栽培に成功した。温室いっぱいに咲く新しい花を眺め、達成感を噛みしめる。
さっそくテレビ電話で、遠くに住む両親に研究の大成功を伝えた。
しかし、そこで気がついてしまった。テレビ電話の画面の端に映る鉢植えの花に。
「ああ、この花は私達の故郷の花よ。故郷の村はお前が幼い時にダムの底に沈んでしまったけど、同郷の人があの村にしか咲かない珍しい花の球根を保護していて、この間分けてくれたの」
母は何気なく言った。
なんてこった。僕はきっと幼い頃に見た花の面影を無意識に追い求めていた。
僕の作った花は故郷の花と同じ。新しくはない。新しくなければ意味はない。
僕は温室に灯油を撒き、火を付けた。



 母校の近くを十年ぶりに通りかかった。驚いたことに、帰り道の買い食いの定番だった人形焼きの屋台が商店街の中に今も変わらずに佇んでいた。懐かしさの余り1個買ってしまった。
 キツネ色の柔らかな生地に目と鼻と口、そしてぷっくりとしたほっぺが浮き上がった、おかめの顔の人形焼き。中にはきっとアンコがたっぷり詰まっている。
 勿体なくてすぐには食べられず、人形焼きとしばし見つめ合う。
 学校帰りに友達とこの人形焼きを食べていたら、クラスメートの男子に「共食い」とからかわれて腹を立てた。本当はあの子がちょっぴり気になっていたんだっけ。
 そんなことを思い出しながら人形焼きにかじり付く。あの頃と同じように、大きな口で豪快に。
 私を試着室に案内した店員はカーテンを閉める瞬間に告げた。
「当店ではお客様にぴったりの服が見つかるまで試着室からは出られないことになっていますのでご了承下さい」
 隣の試着室からは啜り泣く声が聞こえる。これも合わない、これもこれも。いつになればここから出られるの?
 私は緊張しながらワンピースを頭から被った。サイズも色もぴったり。良かった。試着室から出られそうだ。
 カーテンを開く。
 しかしそこはまた別の試着室。そして別のワンピースが壁にかかっている。
 私は気が付いた。この試着室でも、そしてこの先無限に続くであろう全ての試着室でも私は永久にワンピースを試着し続けなくてはならない。
 私はここから出られない。